磁石の表面上で孤立した量子スピンの作製に成功~磁気トンネル接合MgO/Feを用いた量子ビット開発へ~

2025年08月07日

研究?産学連携

 澳门金沙城中心_澳门正规网上平台下载-【唯一授权官网】大学院工学研究院の山田豊和准教授、ピーター クリューガー教授、同大大学院融合理工学府博士後期課程の石井響誠氏、およびNana K. M. Nazriq氏(研究当時)からなる研究チームは、走査トンネル顕微鏡(STM)を用いて、パソコンやスマートフォンなどで磁気情報の書き込みを実現するために欠かせないデバイス「MgO/Fe積層薄膜」の表面観察を実施しました。その結果、このMgO/Fe積層薄膜の上に、電子が持つ小さな磁石のような性質である「量子スピン」を、 孤立した1個の状態で安定的に実現できることを、世界で初めて実証しました。この成果は、孤立した量子スピンが、将来的に量子センサーや量子コンピューターといった次世代量子技術において、量子情報を担う最小単位である「量子ビット(qubit)」として中核的な役割を果たし得ることを示唆するものです。さらに注目すべきは、この量子スピンがすでに広く実用化されているスピントロニクス素子(磁気情報デバイス)と同じ、真空中での薄膜形成技術(真空製膜法)によって作製可能であった点です。つまり、現在の技術基盤をそのまま応用できるため、量子デバイスへの応用展開も非常に現実的であり、今後の発展が大いに期待されます。
 この研究成果は、2025年7月30日付で英国王立化学会が発行する学際的科学ジャーナルNanoscale Horizonsにオンライン公開されました。

  • 図1:Fe(001)磁性基板の表面を、厚さ約1 nmの絶縁体であるMgO薄膜で被覆し、その上に量子磁石であるCuPc単分子を吸着させた。その結果、分子内に存在するCuイオンがスピン角運動量 S = 1/2 の量子スピンを持つことが、ゼロバイアスピーク(ZBP)の出現から確認された。これは、スピンが他の電子とほとんど相互作用していない“孤立した状態”にあることを示す。

    図1:Fe(001)磁性基板の表面を、厚さ約1 nmの絶縁体であるMgO薄膜で被覆し、その上に量子磁石であるCuPc単分子を吸着させた。その結果、分子内に存在するCuイオンがスピン角運動量 S = 1/2 の量子スピンを持つことが、ゼロバイアスピーク(ZBP)の出現から確認された。これは、スピンが他の電子とほとんど相互作用していない“孤立した状態”にあることを示す。